臭い(におい)とは?

におい(匂い・臭い)とは科学的に言うと分子単位で構成された揮発性(常温で蒸発する性質)の<物質>です。私達はその物質を鼻でキャッチし、脳でその性質を判断することで「におい」と認識します。逆を言うと、脳でにおいと判断されない物質は「におい」ではありません。

つまり、「におい」とは以下の要件を満たすものと言えます。

1.分子単位で構成された物質であること

2.揮発性であること

3.脳で「におい」と判断できること

「におい」を辞書(大辞泉)で引くと「そのものから漂ってきて、嗅覚を刺激するもの」とある。

確かにそうかもしれないが、具体的に何なのかは示していない。

しかし、この文章を科学的に解釈すると次のように言い換えることができる。

においの性質を持つ分子単位で構成された揮発性の物質で、嗅覚を通じて脳で判断できるもの

少し分かりにくいので文章を分解して、要素をまとめると以下のようになります。

  1. 分子単位で構成された物質
  2. 揮発性である
  3. 脳で「におい」と判断できる

一つずつ詳しくご説明致します。

1.分子単位で構成された物質

「におい」とは科学的に言うと、分子単位で構成された物質になります

例えば、バラの香りは、

β-ダマセン(分子式:C13H18O)
ネロールオキシド(分子式:C10H16O)
ローズオキシド(分子式:C10H18O)
ゲラニオール(分子式:C10H18O)

などのニオイ物質から成り立っています。

これらニオイ物質は世の中に40万種類あると推測されています

自然物の最小単位は分子ですので、におい物質は全て分子単位の性質となります。

また、分子構造が変わると匂いも変わるか匂い自体が無くなります。この性質を利用したのが化学変化による消臭です。

2.揮発性である

揮発性というのは常温状態で空気中に漂うという性質です。

「匂う」ためにはにおい物質が私達の鼻の中に入る必要があるので当然と言えば当然です。

たとえ、においの性質を持つ物質があっても揮発性でなければ、私達にとっては「におい」ではありません。

余談ですが、魚にも嗅覚があることが分かっています

魚が匂いを嗅ぐとすれば、当然水の中です。ということは、揮発性ではない物質の匂いを嗅いでいることになります。

つまり厳密な言い方をすると、におい物質は必ずしも揮発性ではないが、私達にとっての「におい」は揮発性物質であることが必要ということになります。

3.脳で「におい」と判断できる

唐突ですが、問題です。

二酸化炭素に「におい」はあるでしょうか?

答えは「どちらとも言えない」です。

空気中には二酸化炭素が含まれています。しかし、匂いはしません。

”人間にとっては”二酸化炭素には「におい」はありません。

しかし、

蚊は二酸化炭素の匂いを辿って、動物の存在を見つけ血を吸います。

つまり、”蚊にとっては”二酸化炭素には「におい」があるのです。

このことは物質そのものに「におい」の定義があるわけでなく匂いを嗅ぐ側が「においか否か」を決定していることを表しています。

人間の場合、鼻の嗅覚器で感知された物質の情報が脳に伝わることで、「におい」の存在や性質を判断します。

「物質がにおいか否か」は脳が判断して決定しているわけです。

人間は視覚を重視したために嗅覚が退化していると言われます。

昔は「におい」としていた物質の多くが現在では「におい」では無くなっているのです。

つまり、人間にとっての「におい」とは物質の属性などによるものでは無く、脳で「におい」と判断できる物質のことなのです

においが持つ意味・役割

前段で「においか否か」とは脳が決定していると述べましたが、脳はどのようににおいを決定しているのでしょうか?

このメカニズムは明確には解明されていませんが、他の感覚器同様、人類の誕生から長い年月をかけて生存に必要な情報をにおいの属性と共に記録していったと思われます。

例えば、”いい匂い”は「美味しい食べ物」や「落ち着く空間」、「好きな人」など”生きること”に関係しているものが多くあります。

逆に”臭い匂い”は「腐敗したもの」や「危険物」など”死”に関係するものが多くあります。

これら脳が決定したことは遺伝子に組み込まれるわけですが、このにおいに関する遺伝子(嗅覚受容体をコードする遺伝子)は、ヒトでは910個もあり、全遺伝子の約3%を占めていると言われます。

視覚に関する遺伝子が3~4個と言われますから、如何に「におい」が重要か分かると思います。

しかし、現在ではこのにおい遺伝子の半分は使われていない偽遺伝子となっています。

これは視覚の発達に伴い嗅覚が必要なり退化してきている証拠と言われます。

危険な臭いは今だに重要

生命や健康を脅かす危険な物質の「におい」はだいたい臭い(くさい)です。

例えば、アンモニア、硫黄、メルカプタンなどです。

人間の嗅覚は退化してきていますが、危険物に対する臭いはまだまだ重要なものと認識されているようです。

これは多くの危険な物質が目に見えない気体であり、微量でも感知できる必要があるためと思われます。

●危険な臭いの実験

ここで一つ、「臭い(くさい)においが如何に人間にとっての危険信号になるか」を理解するための実験方法をお教えしましょう。

まず、靴でもくさやでも強烈に臭いものを用意してください。

次に、寝ている人にその臭いを嗅がせて下さい。

どうですか?

起きましたよね?

寝ている人を一発で起こす方法と知られているのが「強烈に臭いものを嗅がせる」という方法です。

これは臭い(くさい)においを嗅ぐことで危険を察知し、本能的に目を覚ますからだそうです。

殆どの人は目を覚ましますので、なかなか起きない人に試してみてください。

ただ、寝起きの機嫌が悪くなるかもしれませんが、それは自己責任でお願いします。

また、当然ですが危険物など刺激臭を嗅がせるものやめて下さい。

「臭い」と「匂い」の違い

においを漢字で表すと「臭い」と「匂い」の二つがあります。

「臭い」は「くさい」と読むこともできるように、「嫌なにおい」を表す時に使われます。

一方、「匂い」はどちらかと言うと「良いにおい」を表す時に使われます。

「匂い」は「バラの匂い→バラの香り」など、多くの場合「香り」と置き換えることができます。

また、「匂い」は”雰囲気”や”見た目”、”様子”など感情的な意味に使われることがあります。

これは「におい」と感情が非常に近い関係にあるからだと考えられます。

においは感情に働きかける

質問です。

「お金持ちだけどブサイクな人」と「お金持ちだけど臭い人」はどちらがモテないと思いますか?

どうですか?

多くの人は「臭い人」と思うのではないでしょうか?

これには根拠があります。

「ブサイク」というのは視覚で判断します。

視覚は大脳皮質に直接情報が送られて処理されます。

一方、「臭い」というにおいは嗅覚で判断します。

嗅覚は一度大脳辺縁系という場所に情報が送られ、その後大脳皮質で処理されます。

大脳辺縁系は大脳辺縁系は感情に大きく影響を及ぼす部分です。

その為、ここに情報が送られることで感覚が理論的に判断される前に感情的な判断が下されてしまうのです。

つまり、視覚の場合、たとえ「ブサイク」が嫌だったとしても、「性格が良い」とか「お金持ち」など他の要素を含めた論理的な判断を行うことができます。

しかし、「臭い」は感情に影響を及ぼすので理屈抜きの拒否反応が出てしまうのです。「生理的に無理!」というやつです。

ですので、「臭い」というマイナスポイントを補うことが非常に難しいのです。

もちろん個人差はありますが、多くの方は納得頂けるのではないでしょうか。

感情だけではありません。大脳辺縁系は自律神経にも大きく関与しています。

このため、「におい」は”体調”そのものにも影響を与えることが分かっています。

この性質を利用したのがアロマテラピーです。

このように、「におい」は人間の根源的な部分に大きな影響を及ぼす要素でもあるのです。

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